鳳凰三山(地蔵岳)登山

by 平野 直樹(投稿日:27 Jul 1994)


期間:1994年6月12日(前日より青木鉱泉付近のドンドコ沢にキャンプ〉
参加:馬場勝寿、吉岡謙二、吉岡(旧姓馬淵)玲子、今野祥秀(以上HUCC-OB)、平野


 『トキョートッキョキョカキョクトキョートッキョキョカキョク』とブッポウウソウが鳴いている。南アルプス・鳳鳳三山の登山口である青木鉱泉をあとにして標高差が約1700m(!)のピークと向かって歩き始める。梅雨の中休みのはっきりしない晴れ間は朝だけで、やがて曇り空へと変わっていく。
 それにしても馬場さんは速い。平地と変わらぬ速さでスタスタ登っていく。朝、どこでもサンダル履きの馬場さんがちやんとしたトレッキンクシューズに履き変えているのを見た時にこうなることは予想されていたが、とにかくひとりでずんずん登っていってしまうのだ。先は長いんだから最初から飛ぱすのはやめましょうや・・

 今回のために買った2.5万図を見てぴっくりした。とにかく最初から最後まで等高線のまぱらな所がない、ひたすら苦しみ続けなけれぱならない運命の山なのである。最近の体力、また今まで山らしい山には一緒に登ったことのない連中との山行であることなど考えると、かなり無謀な計画だとは思い、一時はひるんだ自分であったが・・・それでも登ってしまう山の魅力っていうのは恐いものだ。
 登山道は、ドンドコ沢をつめるかたちでピークを目指している。「南アルプス天然水」のCMとは全く関係ないが、この沢の水がとてもおいしいのだ。なんで?花崗岩から参みだしてきたからだろうか、と思わせるくらい花崗岩で出来た沢なのである。透き通った水は底の白い岩にその色を映えさせ、涼しげな透明感を作り出している。周りの砂がこれまた風化した花崗岩の粒なので(ほら、ホテルのロビーなんかにあるでしょ、大きい灰皿の中に敷いてある白い半透明の砂。あんな感じ。)流れが砂を巻き上げても沢は全く濁らない。見ても飲んでも美味しい、とてもいい沢である。
 サイクリング部での山登りのパターンはまだ分からないので、今までの自分のパターンに持っていくため登った高度と時間に注意し、大体1時間に10分位の休みを取るように仕向ける(そうしないでも、大体そうなっていったのだが)。
 馬場さんだけが速いわけではなかった、ほかのメンバーも速い。最初のこそ『ふふん、今からそのペースじゃ後までもたないぜ、もっと後のことを考えな』な一んて思っていたが、『こいつら最後までこのままの体力で行くかも知れん、やぱい、自分だけ置いていかれるっ」と不安になる。でも本当に先は長い。ドンドコ沢はいい沢だとさっき書いたが、あれは上流の一部分、わりと平坦地での描写であって、コース中ほとんどは豪快な滝の連続となって一気に流れ落ちていくとんでもない沢なのである。その横を登っていくのだから傾斜の程は想像がつこう。そこをみんなスタスタ登っていくのだ。信じられない。
 鳳風小屋から先の残り400mの登りは砂礫地の連続。一歩踏み出しても半歩分を地面に吸い取られていくあの空しさ。さすがにここでは皆(馬場さん以外)が何回も休みを入れてふらふらと登っていった。地蔵−観音の登山道との合流するコルに出ると、そこにはお地蔵さんがいっぱい(ほんとに)。あたり一面のガスとともに一種異様な雰囲気を作り出していた。最後の岩場を登りきるとピークである。オベリスクと呼ぱれる高さ7〜8mの岩の上がそそり立ち、本来その上が正式なピークとなるが、私はここまでで気力を使い果たして上までは登らなかった。
 下りも元気な他のメンバーの「走降り」になんとかついていきながら、明るいうちに無事下山。青木鉱泉で温泉につかって体をやすめてから帰途についたのであった。