ショートレポート: 東京オリンピック 男子ロードレース観戦記

by G(投稿日: 9 Aug 2021)

日程:2021/7/24(土)
参加:Goki(計画)
コース:御殿場→明神峠→御殿場(21.9km/516m)
天気:晴れ時々曇り
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<はじめに>
 コロナで一年遅れとなっていた東京オリンピック、待望の男子ロードレースが開催された。距離244km、獲得標高4865mの物凄いコース(東京武蔵野森公園をスタートして、道志道→山伏峠→山中湖→籠坂峠→富士スピードウェイ(SW)→南富士エバーグリーンライン→富士スカイライン→富士SW→明神峠・三国峠→山中湖→籠坂峠→富士SW)。つい先日に、ツールドフランスを二連覇したばかりのポガチャルの他、豪華な選手たちが集った。
 このレースが単身赴任先の御殿場を通ることを知った時には、運命を感じてしまったものだ。千載一遇のチャンス。それもこんな凄いコース、1990年に観戦した宇都宮での世界選手権の比ではない。見ないで死ねるか、くらいの。開催が一年伸びて、春先に会社をやめて御殿場を離れようかなという状況になった時に、踏みとどまる一因にもなってくれた。
 観戦場所は、コース中で一番きつい明神峠のドーナッツ坂と決めていた。やきもきしたのは、7月に入ってからなかなか梅雨明けしなかったこと。さらに梅雨が明けても不安定で、予報が直前までころころ変わったこと。雨になっても行くぞと覚悟したら、何とかなってくれた。


*明神峠のドーナッツ坂
 明神峠・三国峠方面の交通規制は14:45〜17:45だが、万が一も考えて10時にアパートを出発した。富士SWをすぎて上り口である147号に入ったのは10:26。観戦のためだろう、歩いて登っている人たちがいる。出だしは調子良かったが、とにかく暑くて、力が出なくなってくる。5月末の3000mチャレンジの時より、断然きつい。20分くらいで一度止まり、さらに10分ほど上り、ドーナッツ坂の真中くらいに到着したのは10:57。到着というより、18%以上の勾配に力尽きて路側の方に逃げ込んだだけ。そのまま、日陰の擁壁に自転車を立てかけて、ここを観戦場所に決める。
 この時点で既にパラパラと観客がいる。遠く下に見えるのはゴールとなる富士SWだが、残念ながら自分の目では細かくは見えない。11:10、ちょっと早めの昼食。お腹がはらないように、おにぎり2個とパン1個。ここら辺は御殿場方面への見通しが良いせいか、携帯の電波が届く。11時にスタートしたはずなので、レース中継が見れないかとYouTubeを見てみると、それらしき物はあるが、残念ながら何も再生されない。それで、この問い合わせがてら、観戦に来ていることを皆にメールしてみた。早速DAZから返信があり、gorin.jpで、レース中継を見ているとのこと。心強い。バッテリー節約のため、DAZからメッセージが入った時に、中継を見て状況を確認することにする。

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ドーナッツ坂から下を見る(右側遠くに富士SW)
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ドーナッツ坂から上を見る | 自転車を置いた日陰

 傾斜上に座っているので落ち着かず立ったり座ったりを繰り返す。汗でビショビショになったレーサシャツがなかなか乾かない。1時少し前、持ってきた文庫本を読みながら待つ。少し内容が面白くなってきたので、深入りしすぎないように注意する。セミの声がすごい。ジャジャジャジャ。何ゼミだろう。まだまだ自転車で登ってくる人がいて路側が埋まっていく。歩きで登って来たにいさんに少し場所を譲り、暑いですねと話しかけると、彼は日傘を持ってきていた。これが無いと焼けちゃいますよと。大きなカメラを持ってきていた。
 ここでずっと待っている間、散発的に警察車両や白バイがコースチェックに通って、道路にはみ出さないでね、イン側に集まらないでね、と注意して行くが、この激坂ではあまり役に立つ注意では無いなあ。
 1時半ころには、複数人の逃げが決まっていて、集団は落ち着いている。道志の湯を過ぎたあたり。20分に迫る極端な差がついているが、有力な選手たちは全く動かない。後に控える山を考えてのことだろう。ただし、オリンピックでは、現代レースで常識となっている無線が使えないので、離れた前の状況が分からないし、チーム監督からの指示も届かないので、波乱がおきうる。
 山伏峠を越えて山中湖北岸を回る。そこから籠坂峠を少し登った後の長い下りを経て、一度富士SWを通る。2時過ぎに、富士の裾野への上りに入ったと、DAZから連絡があった。先行と集団の間は15分だと。中継を確認するが、レースはここからがやっと本番だろう。2時半を過ぎると、自分の場所は、日向になってしまった。レーサーキャップとタオルだけでは暑さを防ぎきれない。レーサーシャツが乾くのは良いが、体も干上がってしまう。ボトルの水を少しずつ大事に飲む。

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レースを待ちわびて下を伺う観客

 3時10分頃、残り100kmを切り、先行の人数が減り、集団との差も10分以下に縮まってくる。このドーナッツ坂辺りには、もう結構な観客が集まっている(特に上の方)。まだ暑いが、日が傾いてきて、時々風が吹いて涼しさの気配が感じられるようになってきた。富士裾野への上り終盤で集団のベルギー、イタリアが本気の追い上げを開始して、先行と集団の差は6分を切ったと、DAZから連絡。何とバルベルデ(スペイン)が脱落していた。増田は切れたが、新城は少し遅れるもなんとか耐えたようだ。
 3時40分頃、御殿場まで下りてくる間に大集団に戻り、富士SWおよび周辺の周回に入る。上空をヘリが飛んでいる。この辺りから富士SWの方を見て、動いている集団が見えると、何人かが声をあげる。4時半頃、この上りに入ったらしい。ポガチャル(スロベニア)が飛び出した、3人で、と中継を見て声を上げる人がいる。上空のヘリコプターも近づいてきて、いよいよだと、周りがざわめき出した。

*選手たちの通過
 ざわめきの中で、レース車両が前を通過しだすと、いよいよ期待が高まってくる。 そんな時に、日の丸と旭日のでかい旗を持ったおっちゃん二人が、あろうことか自分の前方に陣取ってきた。嫌な予感。

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先頭のレース車両の通過

 そして、ついに、先行するポガチャルを含む3人が目の前に近づいてくる。観客の声が大きくなる。アレ、アレ。ファインダーを見ずに写真を撮る。すぐ後ろから、ポガチャルを絶対に逃がすまいと、ファンアールト(ベルギー)とカラパス(エクアドル)を含む数人がダンシングで追いかけてくる。さらに数人の固まりが通りすぎる。

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ポガチャルを含む先頭。(見事に旗で隠れてしまった。)
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ファンアールト(薄青のジャージ)とカラパス(白と黒のジャージ)を含む追走グループ
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この辺りまでが、最終的に第一集団となる11-12人。

 ここから後は、バラバラになって次々に登ってきたので、間近で声援を送りつつ、とりあえず写真を撮る。どの選手かは、ほとんど後で確認した。ベッティオ(イタリア)、サイモン・イエーツ(イギリス)。双子のアダム・イエーツは第一集団に入っていた。マイカ(ポーランド)、ダン・マーティン(アイルランド)。ログリッチ(スロベニア)、ルツェンコ(カザフスタン)。有名どころであっても、大きな山を二回上り下りしての180kmすぎでは、かなり脚にきているようだ。暑さにやられてる感じの選手も何人もいる。ギア比は42-30とか39-30とかだろうか、コンパクトクランクはいないようだ。このコースは、獲得標高は大きいが所謂山岳コースの括りには入らないのかもしれない。

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ベッティオ | 左がサイモン・イエーツ
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マイカ | ダン・マーティン
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ログリッチ | ルツェンコ

 さらに10人前後通過した後に、我らが新城(白赤のジャージ)が登ってきた。まだ元気そうだ。頑張れ〜。かなり傾いてきた日差しが眩しく映り込む。ここからはもう写真を撮らずに、ひたすらアレ、アレと応援に徹する。旗のおっちゃん二人が移動したおかげで見やすくなった。有名な選手がたくさんいるのだが、皆かなりへばっているようで、イメージとのずれから(ジャージ違い含む)すぐには分からなかったりした。

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新城を含むグループ

 たぶん、50人近くを見送った後、ちょっと間があって下から声援が上がってきた。増田だ。最後尾だろうか、根性で登ってきている。完走を諦めていないのが伝わってくる。もう少しだけ頑張れば上りきれる、大丈夫だ、頑張れ。その後、散発的に10数人登ってきたあとに、最後尾のレース車両が登ってきた。4時50分、レースが全部通過し終わった。

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増田
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最後尾のレース車両の通過

*帰り道
 少しの余韻の後、皆帰り支度を始める。場所を少し譲ったにいちゃんが戻って来た。すごかったですね。日本で二度と見れないものを見ましたねと。いい写真をたくさん撮れたことだろう。はたして、この峠を先頭でのぼってきた3人は逃げ切っただろうか、レースの行方が気になる。もしかしたら、今降りれば富士SWに戻ってくるレースを少しだけ見れるかも知れない。と思ったところで、まだ交通規制が解除されていないので、自転車は押して下りてくださいと、パトカーや路側に待機していた警官から声が掛かる。なんと残念。
 解除を待ってから行くか。隣にいた自分より大分若いおっちゃんが、少しでも先に行きたいので歩きますわ、と言って下りていった。しゃあない、行くか。まだ新しいMTBシューズで、ソールが減っていないので、ガシガシと歩いて下る。無心で歩いているうちに、半分以上下った気がする。パトカーが何かアナウンスしながら下から上がってくる。パトカーの横に規制解除の表示があったことに気づいた。すぐに自転車に乗るとすぐに50km/hほどになる坂がまだ残っていた。147号の出口まで来たが、富士SWへの道はまだ規制されている感じなので、このまま裏道を通ってアパートに戻ることにする。5:46アパートに到着。

*レースの行方
 気になっていた結果を知りたくて、DAZにメールしたところ、優勝・金メダルはカラパス、二位・銀メダルはファンアールト、三位・銅メダルはゴールスプリント鼻差で負けたポガチャル、だとのこと。明神峠を先頭通過したポガチャルが逃げ切って、と単純には行かなかったようだ。後で、ダイジェストビデオを見ると、明神峠→三国峠→山中湖南岸→籠坂峠と進んで、下って行くうちに、前にいた10人前後が一度集団に戻った。皆スプリント力のあるファンアールトを警戒しすぎて、少しお見合い気味になっている隙を見逃さず、二人が飛び出し、さらにそこからクライマーのカラパスが渾身のアタックで独走状態に入った。この状況を狙っていたようだ。今年のツールドフランスを三位で終わった悔しさを完璧にはらした。
 約1分後の二位争いは、ファンアールトの楽勝に見えたが、8人のスプリント合戦。ファンアールトの後ろからゴール寸前でポガチャルが飛び出し、写真判定になった。あと50cmあれば、ポガチャルが勝っていたような僅差だった。ずっと、ライブ中継を見ていたDAZは、全編をさぞ楽しめたことだろう。
 新城は35位。ファンアールトらと9分差ほどの第4集団くらいの立派な走りだった。そこから10分遅れで最後にゴールした二人のうちの一人、増田が84位完走。お疲れ様。43人がリタイアしているレースの中での完走は根性だ。明神峠で増田より後ろにいた選手達はリタイアしたのだろうか。
 この日は、シャワーを浴びて洗濯をしたところで、強烈な眠気に襲われ、夕食も取らずに寝てしまった。大レースを目前で見れた満足感と、強い日差しの中での待ち疲れのせいだろう。

*その他のレース
 翌日7/25の女子ロードレースは、ネットのライブ中継で見ることにした。スタートから籠坂峠を超えて富士SWへ行くところまで、男子と同じコースだが、そのままゴールするところが違う。大きな山が一つなので、波乱無く本命のオランダチームの誰かが優勝するのでは無いかと予想していたが、然にあらず。10kmのパレード走行直後の0kmから数名で飛び出したグループが籠坂峠に入るところまで持ちこたえ、最後は3人で集団を5分以上離したまま進んだ。彼女らは結局富士SW近くで集団に捕らえられるのだが、実はその前に籠坂峠の上りで一人アタックして飛び出した選手がいたのだ。そして20km以上を一人で逃げ切った。誰もそれに気づかず、二位で入ったオランダ選手は優勝したと思ってゴールで両手を挙げていたくらいだ。これは無線が使えないレースで起きた大波乱。それにしても、優勝したオーストリアのキーゼンホーファー選手の根性がすごかった。いいものを見せてもらった。完走者は75人中の48人。ヨーロッパで戦っている与那嶺は3分差で21位。金子は8分差で43位完走。
 この後台風が近づいて天気を心配したが、北に少し逸れてくれたおかげで、静岡県への影響は軽微だった。7/26伊豆CSCの特設コースで行われたMTBクロスカントリー男子は、本命のマチュー・パンデ・ポールが、1週目のドロップで真っ逆さまに落ちてしまいリタイアしたのが残念だった。コースの微変更をしらなかったようだ。またしてもオランダチームの失態。ずっと世界で戦ってきた北海道出身の山本は29位。お疲れ様でした。7/27のMTBクロスカントリー女子は、早朝の雨でコースが少し泥濘み、難しそうだったが、スイスのヨランダ・ネフが2位に1分以上の差をつけて優勝。ファンなのでうれしい。見ていて格好いいのだ。
 7/28は再び富士SWおよび周辺で、男女のロードタイムトライアルが無事開催された。先に行われた女子は、ロードで悔しい二位だった、オランダのバン・ブローテンが優勝。よかったね。与那嶺は4分差の22位。去年発覚した選手生命を危うくする病気と折り合いをつけて、ここまで来ただけでも立派だ。男子では、突然の引退から復帰したデュムラン(オランダ)を応援していたが、ツールを落車リタイアしたログリッチ(スロベニア)が意地の優勝。デュムランは銀メダルだけど良かったね。
 最後に、伊豆ベロドロームで開催された自転車のトラックレースは、ワールドカップなどで勝って期待されていたJPNのメンバがずっと勝てなかった。かえって重圧だったかなあ。8/8最後の最後で梶原が女子オムニアムで銀メダルを取ったことで、有終の美を飾れたのは良かった。


<おわりに>
 これを書きあげている8/9時点で、東京オリンピックの全競技が終わっている。自転車は、ロードレースおよびタイムトライアル、MTBクロスカントリーが、途中に来た台風の影響もなんとか避けられ、全て無事開催された。どれも本当に凄く見応えのあるレースで良かった。何より自分の身近で間近で見れたことは最高だった。
 もう御殿場に用は無い、という訳でもないが、もう少しだけ、この辺を走って楽しみたいと考えている。


関連リンク:
 2021年 3000mチャレンジ
 2019年 明神峠・三国峠